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可愛さの側面:グラバー由美子、現代の日本文化の動向を考察する

江戸時代(1615-1868)の木版画には、あどけない外見を持つ遊女の姿が数多く登場した。その事実は、当時の近世日本においても、女性がイノセントで無垢な印象を持つことが性的イメージの価値を高めるのにどれだけ重要であったかを物語っている。現代ではロリータコンプレックス(ロリコン)と称されるこの現象は、20世紀全般から現在に至るまで、性的対象として若い女性が根強く好まれる日本の性文化の側面をよく現している。早くも17世紀頃には、吉原の遊女達が平安時代(794-1185)の宮廷ファッションを真似て着ていた。それが日本のコスプレの始まりであると言われている。さらに、コスプレは20世紀後半以降に起きた現代の文化現象でもある。

グラバーは、この作品のなかで、フレンチメイド服を着た二人の若い女性が、どこにでも存在するような公衆トイレに居る様子を描いている。足元には、極小サイズの色鮮やかなウサギ達が群れを成して一斉に彼女たちのスカートの中を見上げ、覗き見のエクスタシーを堪能している。背景には、富士山といった日本の伝統的風景や、宇宙戦艦ヤマト、機動戦士ガンダム、秋葉原の街並みの他、日本のポップカルチャーを連想させる漫画やアニメ、ビデオゲームなどの要素が描かれている。この構図の中に、近世から継続して「若さ」と「エロ」が強調されたロールプレイング(役割演技)の存在が窺われる。

グラバーは、秋葉原などで多く見られるこの種のメイド風コスプレに、現代日本の性文化の複雑な側面が反映されていると感じている。それは、メイドに扮した彼女達が多くの人々の注目を浴びていることだけにではない。性的な妄想をも抱かせる効果を持つメイド風コスプレが公衆で氾濫している現状が、地球の別の場所で今も存在する人権危機に対する認知度の低さを現していると感じるからだ。

現在、世界中で、数 百万人もの出 稼ぎや移民労働者の女性がメイド(女性使用人)として不当な環境のもとでの労働を余儀なくされています。中東においては、サウジ アラ ビアで150万人、クウェートで66万人、レバノンで20万人以上の外国人女性がメイドとして働いています。彼女たちの多く は、人間 としての尊厳を保障されるどころか、常に雇用主からの暴行虐待のリスクを抱えながら、いわゆる 「現代の奴隷」と言っても過言ではない劣悪な環境で働かされています。

-インタビューより抜粋(2013年12月)