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ビデオPodcast2:「丸尾末広とエログロの芸術」(ナレーション:スティーブン・サレル)

エログロとは、日本美術の歴史を通じて浸透した性的表現を含むエーマである。春画は17世紀中頃に驚異的な人気を博した。なぜならば公の場で手を繋ぐような無害な愛情表現さえも良しとしない社会的礼節に対して、春画は露骨に、そしてしつこく挑戦していたからである。それと同時に、艶かしく抱擁するカップルを描いた絵画や版画はスキャンダラスであるとも考えられていた。しかしながら、大衆はそのような画像に段々慣れてきて、タブーの意識も消散していったので、アーティスト達は、より挑発的で奇妙なテーマに思い切って挑戦しなければならなかった。その一つが19世紀に描かれた女性器のお化けに襲われる少年の話である。

近代・現代美術の多くの日本人アーティスト達はエログロを表現した作品を制作したが、今展覧会では漫画業界において最も顕著な賞である手塚治虫文化賞を近年受賞した漫画作家、丸尾末広に注目する。念入りに描かれた丸尾の作品によく登場するモチーフは薔薇と人間の目であり、それらは両方とも繊細さ、美、そして純潔さの象徴である。丸尾は、これらの象徴を恐ろしい方法で操り、見るものを身悶えさせる。

これらのモチーフは、丸尾の短編「あらかじめ不能の恋人達」において、残酷な役割を果たす。物語は若い男と、彼が性的関係を持っていた二人の女性に焦点を当てている。最初のシーンでは、死んだ男が床に横たわっており、その横に悲しみにくれる恋人の一人がいる。我々はすぐに彼女が錯乱状態にあることがわかる。彼女は死んだ恋人の眼球の一つを取り出し、彼の記憶を覗こうと眼球を彼女の性器の中に入れる。彼女が最初に見た記憶は、二人がともに過ごしたロマンティックな日々であった。男は彼女の髪を愛情をこめて薔薇で飾り、そして彼の眼球を通して見た様々な出来事の中で、彼女はあまりにも幸せだったので「私は美しいものだけを見たい」と言った。しかしながら、その直後、彼女は自分のおろかさに気づく。彼女が見ている彼の記憶の中で、ライバルである女性と彼との性行為を目撃してしまう。記憶の映像を止めるために、彼女は取り出した彼の眼球を切り刻む。その奇怪なディテールを超えて、丸尾の「あらかじめ不能の恋人達」は本質的には、ソポクレスの描いた悲劇「オイディプス王」のエロティックな再解釈なのではないか。