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寺岡政美の版画にみる喜劇と悲劇

1960年代から1980年代初期にかけて制作された寺岡政美(1936年生)の絵画と版画は、歌川国貞(1786-1865)のような浮世絵師の影響を強く受けている。国貞の三枚続のように、寺岡の「女とアイリス」(1980)は、浄瑠璃の台詞を彷彿とさせる優雅な書体によりさらに高められた豪華で綿密に描かれた構図である。当時、これらの作品の多くは、性の解放の風変わりな表現と意図されていた。国貞が時折描いたコミカルな歌舞伎の場面のように、これらの作品は魅力的にずれている世界を表現している。

しかしながら歌舞伎舞台と国貞の浮世絵は、どちらもグラン・ギニョールの血なまぐさいホラーや悲劇のようであることで知られている。そして1980年代半ばにエイズの危機が寺岡の親しい友人の命を奪った時に、彼は国貞から続いている系譜のダークな部分からインスピレーションを得て作品を描いた。1986年から始まった屏風「American Kabuki (Oishiiwa)」を含む彼のエイズシリーズは、葛飾北斎(1760−1849)の「神奈川沖波裏」(1830-1832年頃)や身の毛もよだつ殺人や復讐を描いた歌舞伎演目「四谷怪談」(1825)の要素を併せ持っている。その15年後に制作され、今回展示されている「セラと蛸 / セブンスヘブン」(2001)では、寺岡は現在の性文化の悪夢のような景色の中で厳しい旅を続けている。性病の話題からはなれた「ハワイ・スノーケル・シリーズ」(1993)でさえも、疑い、動揺、そして欲望のダンスを踊る白人の海水浴女性客と日本人観光客のまわりに北斎の波は不気味に泡立っている。