荒木 経惟(1940年生)
緊縛シリーズより「無題」

1998年
(L.2014-55.04)

重荷がすっかりなくなってしまうと、人間は空気よりも軽くなり、 大地から飛び立って、地上の存在から遠ざかり、もうなかば現実のものではなくなってしまい、その動きが自由であればあるほど無意味になってしまう。私たちはどちらを選ぶべきか? 重さかそれとも軽さか?

-ミラン・クンデラ(1929年生)「存在の耐えられない軽さ」(1984年)より

モデルが宙に吊るされているこの写真は、ただ単に無重力の状態を模倣しようとしているわけではない。彼女から発せられる明らかに不快で無力な様は、この作品に苦しみの感情を吹き込む。だが実際には、彼女はほんの数分間吊るされているだけで、耐えられなくなった時には荒木のアシスタントがすぐに彼女を床までおろして解放する。