荒木 経惟(1940年生)
無題
1995年
(L.2014-55.03)
写真を撮るという行為は、自分以外の人間(もしくは物質)の免れない死、弱さ、そして無常さをも受け止めることである。
-スーザン・ソンタグ(1933-2004) 「写真論」(1977年)より
うなだれて、ほぼ裸のこの女性モデルは、明らかに無気力で人間らしさがない。しかしながら、緊縛においては皮肉な事に、拘束された側が驚くべき主導権を持っているという事実は注目すべき点である。異論を唱える人がいるかもしれないが、実は肉体的に自由である支配する側が、縛られている側の命令で動いている事がある。さらには、エロティックアートの重要なテーマとして、モデルを人間としてよりもオブジェ(物)として見ることにより、彼女の身体的不快感や弱さが、人間性を隠すより、むしろ強調されている。このように考えると、今回の展覧会で展示してあるアーティスト、ツバキアンナ(1970年生)のように、女性達の間で荒木の写真が人気があるのも理解できる。